
【ドクターコラム】
アルツハイマ―病の進行を遅らせる新薬
~レカネマブとドナネマブ~
みなさん、こんにちは。医師の太田晃一です。
今回はみなさんの関心が高いアルツハイマ―病の進行を遅らせる新薬、レカネマブとドナネマブについてお話したいと思います。
軽度認知障害と認知症とは?
大脳は、記憶、認識、行動、などの様々な機能(認知機能)を担っています。
誰でも年を取ると認知機能は徐々に衰えますが、同じ年代の人よりも認知機能が低下した状態を「軽度認知障害」、さらに衰えてしまい日常生活に支障がある状態を「認知症」と呼びます。
アルツハイマー病の原因は?
高齢者の認知症で最も多い原因がアルツハイマー病です。
50歳頃から大脳の神経細胞にベータ・アミロイドというタンパク質が異常に蓄積し始め、そのために神経細胞の数が徐々に減ってしまい、80歳頃から認知症になると考えられています(年齢は人により様々です)。
レカネマブとドナネマブの効果は?
2024年に日本で発売されたこの2つの薬は、ベータ・アミロイドを標的とした抗体で、大脳に蓄積したベータ・アミロイドを減らすことができます。
これにより、アルツハイマー病の「軽度認知障害」と「軽度の認知症」の悪化を遅らせることができます。
中等度以上に進行した認知症への効果は明らかでありません。
臨床試験において、この薬を投与しても1年6か月の時点で認知症は悪化していましたが、その程度は投与しない場合に比べて約3割軽かったことが示されました。
認知症の進行を約5か月遅らせた、とも解釈されています。
具体的な治療方法は?
レカネマブは2週間ごと、ドナネマブは4週間ごとに、1年6か月間通院しながら繰り返し点滴注射をします。
この間に頭部MRIなどで副作用がないかを調べながら治療を続け、副作用があれば治療を中止することがあります。
医療保険制度や後期高齢者医療制度が適用されます。
どの病院で治療を受けられるますか?
まず、
(1)かかりつけ医に相談して「アルツハイマー病」が疑われるか、「軽度認知障害」または「軽度の認知症」に該当するか、を判断してもらいます。認知症専門医療機関を紹介されることもあります。
(2)そのうえで、レカネマブまたはドナネマブの治療適用があると判断されると、厚労省ガイドラインの求める診療体制が整備された医療機関(東京都ホームページで公開)に紹介されます。そこでPET(陽電子放射断層撮影法)や髄液検査により大脳のベータ・アミロイド異常蓄積の有無を調べ、この治療を受けられるかどうかを判断して、治療を開始します。
この薬のインパクトは?
神経内科医にとって、アルツハイマー病のような進行性疾患の原因を突き止め、進行を遅らせる薬を開発することは長年の夢でした。
この技術はパーキンソン病などの薬の開発にも応用されつつあります。
「アルツハイマー病の進行を5か月遅らせる」という効果をどのように受け止めるかは人それぞれでしょう。
軽度認知障害の人は、日常生活に支障が出る認知症になる時期を遅らせることに期待を持たれるかもしれません。
通院の負担や薬の副作用リスクもあります。
アルツハイマー病が疑われてPET検査をしても、ベータ・アミロイドの異常蓄積が見つかる人の割合は半分程度です。
異常蓄積のある人は、アルツハイマー病としてのこれからの人生と向き合わなければなりません。
新しい治療薬の時代を、その恩恵を社会全体で享受していただけるように育んでいきたいと願っています。
▼詳しくは以下をご覧ください▼
東京都のホームページはこちら
レカネマブ投与可能医療機関はこちら
執筆者プロフィール
天本病院 医学博士
太田晃一(おおた・こういち)
【専門】神経内科、認知症、脳卒中、
パーキンソン病
・日本認知症学会認定認知症専門医
・日本内科学会認定内科医
・日本神経学会認定神経内科専門医
・日本脳卒中学会認定脳卒中専門医
・日本頭痛学会認定頭痛専門医
・難病指定医
(広報誌『あっぱれ』2025年冬号掲載)
2024年12月25日 カテゴリー(天本病院): 医療コラム。