【医師コラム】認知症を抱えた方の意志決定支援

【医師コラム】認知症を抱えた方の意志決定支援

みなさん、こんにちは。医師の坂戸です。

今回は「認知症を抱えた方の意思決定支援 ー当事者が真に求めていることを探るー 」をテーマにお話します。

2017年4月27日、第32回国際アルツハイマー病協会国際会議が開催され、認知症の当事者である丹野智文さんの講演がありました。

ここでは、スコットランドでの認知症支援が紹介され、「スコットランドでは、当事者を支援するための考えとしてストレスをなくす、不安をなくす、自立する手助けをするの3つを考えていると言われていました。私は日本ではストレスをなくす、不安をなくす、守る=なんでもやってあげるの3つだと思われていると感じています」との知見が発せられました。

これはこれからの認知症支援を構築していく上で非常に重要なことと思います。自分がどうしたいのかという自己決定、これは誰もが望むものであり、認知症の方々も全く変わりません。

ただこれには、時に誤解が生じることがあります。

例えば、「ずっと家で過ごしたい」という希望を口にすると、「障害があるから家族は抱えきれない」「わがまま」などと周囲が捉えることは現実には起こりえることだと思います。

その場合には「説得」という方法で、家族や支援者が本人の理解を得ようとすることがありますが、そこでは一方的な「押しつけ」になってはいけません。

「本人の声を起点とした認知症地域支援体制づくりガイド」(2018年・厚生労働省)では「本人の声をきく」「本人の声を情報化する」「本人の声を活かす機会を作る」ことが、支援方針を決定するにあたり欠かすことができないとしています。

ただここで重要なことは、「本人の意志を重んじる」=「本人の言う通りにする」ということには必ずしもならないということです。

例えば、「絶対にデイサービスなんて行きたくない。できるだけ住み慣れた家で過ごしたい」と本人がおっしゃったからといって、それだけでは、言葉通りに受け取ってよいのかは分からない場合もあります。

実はデイサービスに行きたくないという言葉の背後には、「知らない人ばかりの中に入るのは不安」などの本人の心配がある場合があります。

その場合には、むしろ本人が何を心配しているのかを探る中で、本人が真に求めていることを一緒に考え、デイサービスへの心の敷居を下げ、デイサービスを楽しめる場所と感じていただけるよう周囲が工夫をしていくことが真の支援である、などの場合もあるでしょう。

当事者の真のニードを掘り起こしていくことが、今後はますます重要になってくると思われます。


【今回のポイント】

◆なんでもやってあげる前に、本人の声に耳を傾けよう

◆言葉の裏に隠された、本当の気持ちを汲み取ろう


執筆者プロフィール

天本病院 医師 坂戸 美和子(さかど・みわこ)

【専門】老年精神科

・日本精神神経学会認定認知症診療医
・日本精神神経学会認定精神科専門医
・日本精神神経学会認定精神科専門医制度指導医
・精神保健指定医
・公認心理師

(あっぱれ2021年秋号に掲載)

 


2021年10月15日 カテゴリー(天本病院): 医療コラム

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