【医療コラム】認知症とフレイル

【医療コラム】認知症とフレイル

こんにちは。医師の天本宏です。

人生100歳の時代となりました。団塊の世代の方々は、還暦を迎え65歳で定年退職をし、それから20~30年間は「お迎え」「往生」は来ないと想定すべき時代になりました。その期間をいかに「健幸」に過ごすか。長命化の時代、認知症について世間の関心が高まっていますが、長年高齢者医療に携わってきた私としては、認知症になってからの後始末より、最初の「老いの兆候」の段階で予防する前始末の大切さをお伝えしたいと思います。

フレイル予防の重要性

加齢とともに運動機能や認知機能などの心身の活力が低下することを老年医学では「フレイル(虚弱)」と呼んでいます。筋肉や骨、内臓はもちろん、認知機能や精神面、社会性も使わなければ退化することに注目が集まっています。老いて家に閉じこもり、動かず、話さず、では、生き物としても人としても、その人らしさまでも退化していきます。「生きる屍」です。長命化の時代には、こうしたフレイル状態を経た認知症予備群が大量に増えています。高齢者が入院すると、元気がなくなったりボケやすくなるのは病気のせいだけではありません。廃用症候群(disuse syndrome)といって、寝たきりで安静にしすぎたために、健康な部分の機能(残存能力)まで衰えてしまったことに起因するのです。

フレイルは予防できます。「あ・し・た」と言いますが、「歩く・しゃべる・食べる」を意識した生活習慣を築くことの重要性を、私は多くの方に呼びかけています。運動などで全身の筋力を維持する、筋肉のもとになるタンパク質を積極的に摂るなど食事に気を配り、話したり歌ったりすること(社会性)を楽しむ。これは、認知症の前段階とされるMCI(軽度認知障害)の進行予防とも多くの共通点があります。高齢になっても筋肉や知性は「使えば」衰えません。愛もそうです。地域包括ケアシステム構想を推進する我が社の「あいセーフティネット」では、「ハートワーク・ヘッドワーク・フットワーク」をモットーにしていますが、職員には「愛と智恵と行動は日々使わなければ退化する」と言い続けています。

こういった日々の生活習慣は、自分自身で取り組まなければなりません。フレイルを学び、いかに予防していくかは、一人ひとりの意思で決まります。ほとんどの方は、考えず、対策にも気付かず、知らないのではないでしょうか。

メディカルケアからヘルスケアの時代へ

わたしたち医療界も変わらなければなりません。病気になったら治療するという後始末の疾病医療から、病気になる前に予防するという前始末の医療へ。メディカルケア(疾病医療)からヘルスケア(健康増進・予防)へ大きく舵を切るのです。そして認知症があってもなくても、ポジティブデータに視点を置き、残存能力を活用し、その人らしさを尊重した全体最適の視点が求められています。多様な軸を合わせ持つ個人の価値観に寄り添い、QOL(生命・生活・人生の質)を重視した「健幸」支援へ。治療や薬物投与だけが医療の仕事ではありません。時代のニーズに応じて、啓蒙活動や環境づくりまで視野にいれた医療の構造改革が必要となってきています。

執筆者プロフィール

河北医療財団 理事長相談役 天本 宏(あまもと・ひろし)

【専門】精神科

■認知症サポート医

1980年に天本病院を開設。以後、現在にいたるまで認知症の診察を続けている。

(株式会社きらぼしコンサルティング 会報誌「きらぼしBusiness&Management」に寄稿。一部改変)

 


2020年9月18日 カテゴリー(あいクリニック): 医療コラム

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